キーンコーンカーンコーン

「じゃあ、行こうか衛宮」

チャイムが鳴ってすぐに俺の席に来た

「どうしたんだ? 正門でいいっていったじゃないか」

「折角同じクラスなのに別々に行くのも変じゃないか?」

「それもそうか」

そうだ、3年に進級した時クラス替えで俺と一成、遠坂に美綴は同じクラスになっていたんだっけ?

「じゃあ行くか?」

「ああ、間桐の話が何なのかも気になるし」

エンジンをかけて見綴が後ろに跨ったのを確認して走り出した

 

 

兆候

 

 

 

慎二の病院は新都にあって、車やバイクで20分位の所にある

「いやあ、ラクチンラクチン」

これから毎日私んとこ迎えに来ないか?なんていってバイクから降りる

「えっと、間桐の病室はどこだっけ?」

「確か特別じゃなかったか?」

「そうね、ちょっと聞いてくる」

そう言って二人で看護婦に慎二の病室を聞きに行った

「ああ、間桐さんだったら隣の棟の404号室よ」

「ありがとうございました」

看護婦にお礼を言って慎二の病室に向かう

「けど、衛宮にならともかく私にも話ってどういうことだ?」

「いや… 俺も知らされてなかったからな。分からないよ」

慎二に最後に会ったのは新学期が始まる時だった

今年も同じクラスになって藤ねぇに頼まれて学年章や手紙を持っていった時だった

聖杯戦争が終わって最初に慎二をお見舞いした時に聖杯戦争で行った自分の行いを泣きながら謝っていたっけな。

美綴がいるって事は聖杯戦争関係の話じゃない

聖杯戦争の話だったら美綴じゃなくて遠坂を呼ぶはずだ

だったら一体、何の話なんだ?

「衛宮、ここじゃないのか?」

「あ、ああ」

よそ見していて慎二の病室を行き過ぎてたみたいだ

「じゃあ、はいろうぜ」

ガラっと引き戸を開ける

そこには聖杯にされた後遺症でやつれ、ランサーに貫かれた左肩より先のない慎二だった。

「やあ、衛宮、美綴。 衛宮はこの前あったけど美綴は久しぶりだね」

「!!!!」

なにやら動揺している美綴は俺の耳元でこそこそ聞く。

「なにあれ? 本当に間桐?」

そう、美綴もそうだが知りあいの人間全員が本当に慎二かというくらいの変わりようだった。

姿形ではなく喋り方が以前のような高飛車な喋り方ではなくとても落ち着いた優しいものになっていたからだ

「どうした? なんか変だぞ?」

「い、いや。 何でもない… けど、どうしたんだ? 衛宮だけじゃなく私も呼ぶなんて」

「ああ。それなんだが今、弓道部はどういう状態なんだ?」

「え…」

「正直言って上手くいっているのか?」

「……」

美綴は黙り込んでしまう

それから少したって美綴の口が開いた

「女子の方は大丈夫だけど、正直言って男子の方はあんたがいなくなってから統率取れなくなってる。

それに、それが女子のほうにまで伝染しそうだから始末に終えない状態かな」

「そうか…」

それもそうだ。 慎二の統率はどうあれ、慎二がいなくなってはうちの男子じゃ勝てない。

そうすると勝てないのに練習して意味がないと思う部員がいるってことか…

「だから? 今更どうしろっていうの?」

「それなんだが衛宮。 弓道部に手を貸してくれないか?」

「は?」

「正直言ってお前の射は俺より優れている。人望も厚いから今の弓道部にもってこいだと思う」

「衛宮の射がまた見れることに文句はないけど、他の部員が黙っちゃいないだろう?」

確かに… 部活もやっていないのに急に部に入ってきた人間にレギュラーの座を奪い取られるのは気持ちのいいもんじゃないだろう。

「それは衛宮の実力を見せればいい」

「例えば?」

「弓道部で一番強い人間と戦わせてみればいい、そうすれば誰も文句は言えないはずだ」

「それもそうか…」

本気で悩んでいる。って俺の意見は無視か!?

「頼む、衛宮」

ベッドの上で深々と頭を下げる慎二。

「けどな…」

「頼む!」

すぐにでも土下座しそうなくらいの態度を見せてくる

「しょうがない… 受けるよ」

「ほ、本当か!?」

「ああ、けど俺には弓道で言う中貫久の久が抜けてるからさ。 勝てるとは限らないぞ」

「けど、お前なら大丈夫なはずだ」

「分かった。じゃあ美綴、どうするんだ? 明日弓道場に行けばいいのか?」

「えっと、みんな部活やってると思うから今から行こうか。 私も衛宮の射を早く見たいし」

「え、今から…」

俺の返答を待たずに手を引いて病室から出ようとする

美綴に引かれて病室を出ようとする俺に慎二が…

「衛宮、桜を頼む。 あの時の傷跡は癒えてきたが、油断できない」

「えっ…? 慎二それって……どうい…」

慎二の言葉の意味を確かめる前に部屋から引っ張り出されてしまった

 

 

台風のように去っていった衛宮と見綴を見送った後、ベッドに倒れこむように横になった。

自分は聖杯戦争ではたくさんの物を失った。

己が魔術師で、特別な人間であると言う自信…

その自信を失った俺に待っていたのは自身による死だったろう…

しかし、あいつは言った。

「お前は今まで奪った奴を背負わなきゃならないんだ。イリヤを殺したのも間違いなくお前のせいでもあるんだから」と…

それが出来ないなら自殺なんかしなくても俺がお前を殺してやるよ。とまで言われた。

最初は頭にきたが冷静に考えると衛宮の言っていることは正しかった…

だから一言だけあいつに忠告しておきたかったんだ

「衛宮、お爺様に気をつけろ。そして桜を頼んだぞ」

それが、たった今出て行った俺の…唯一の友人と妹を心配する初めての言葉だった。

 

 

 

 

美綴にせかされて弓道着に久しぶりに袖を通した。

久しぶりに来たので生地が硬くなっていてごわごわしたが文句は言えない

「それで? どうするんだ?」

「ん〜。 めんどくさいのもなんだから互いに10本ずつ矢を放ってより数が多い方が勝ちでどう?」

「いいぞ。 どっちが最初にするんだ?」

「私が最初にするよ。 その後衛宮でいいかい?」

「ああ、まだ少し手に馴染んでからいるから先にいいぞ」

「了解。 じゃあ先に射らせてもらうよ」

美綴が弓を構える。

まわりの音が静かになり…弓の風切り音が聞こえる

タンっと高い音が聞こえ、矢は的に当たっている

「上手くなったな」

「どうも、次は衛宮の番だよ」

「ああ」

弓をしっかり握りしめ、的を一目見る

射法八節と呼ばれる弓道の構えを取り、目を閉じる

弓道は魔術の鍛錬によく似ている。

自身を自然と一体化させ、当たるのではなく中る。

弓を構えると、瞼の裏に写るのは的に中るイメージ。

正射必中。

流れるような動作から弓を放ち、目を開けるとイメージ通り的の真ん中に刺さった矢があった。

 

 

 

「えっと、こいつが衛宮士郎。 間桐のかわりに入部することになった」

部員たちの視線が一斉に向く

こう、注目されることに慣れてないせいか背中がむず痒くなる。

「実力はまあ、さっき見てもらったとおりだ。大会までの数ヶ月間、弓のことで分からないことがあったらこいつに聞くといいぞ」

美綴のいい加減な紹介が終わってみんなは練習を始める

「けどな、あの説明はないだろう…」

なんで?といった視線を向けてくる

「今じゃ段位だってお前の方が上じゃないか。 それなのに実力はお前以上とか適当なこと言うなよ」

「は? 私だって10本中7本、中てるのが精一杯なのに10本中10本なんてあんたね…」

「あれはまぐれだって。 毎回中るわけじゃない」

「いいや、衛宮は中るね。 終わった後のあんたの顔を鏡で見せてやりたいよ。こう、中るのが前々から分かっている、みたいな顔しちゃってさ」

「そんな顔してたか?」

「自分じゃ分からないんだろうね。 衛宮にはそれが普通なんだ」

「??」

美綴の言っていることがいまいち分からない

「まあ、いいさ。 じゃあ、これからよろしく頼むよ」

改めて、と右手を差し出してくる

こちらこそと見綴の手を握り返す

「しゅ〜しょ〜〜う〜」

後ろからバーサーカーもびっくりな殺気を向けられる

「ど、どうしたんだ? 間桐?」

「どうしたんだじゃありませんよ。 こんなところで油売ってないで練習してください。 一年生が待ってますよ」

「あ、ああ。じゃあ、衛宮お前も後輩の射を見てやってくれないか?」

「ああ、いいぞ。 ついでだから久しぶりに桜の射も見ようか?」

「本当ですか先輩!?」

「ああ、一年生の指導終わってからだけどな」

「わかりました! じゃあ、私は端で練習してますから終わったら声かけてください」

忘れて帰っちゃ駄目ですよ。と念を押して桜は元気一杯練習しにいった。

さて、一年生はゴム弓の練習中か…

美綴一人で一年の世話は大丈夫だろう。

道場に張ってない弓とか、ぎり粉の在庫を調べとくか…

昔みたいな阿鼻叫喚を引き起こすわけにはいかないからな

 

 

えっと、ぎり粉は三箱注文して…

おっと、この弓はひびがはいってるから別に分けとこう

在庫調べから30分、在庫調べが倉庫整理になっていた…

「衛宮―――。 ちょっと来てくれないかー」

美綴が倉庫の入り口まで呼びにきた

「なんだー?」

「ちょっと手伝ってほしいんだけど。今、大丈夫?」

「ああ、在庫は調べ終わったからもう大丈夫だ」

「そう? じゃあちょっと来て」

「了解」

倉庫から出ると日差しが入ってきて目の前が白くなる

「その弓何?」

美綴の視線は俺の左手に注がれてる

弓とはこの弓のことを言ってるんだろう

「ああ、ひび割れてたりしたんだけどまだ直せば使えそうだからさ」

「そういうの好きだね衛宮は」

やれやれといった感じの目を向けられる

しょうがないじゃないか。まだまだ使えそうだし、直せそうなものは直さなきゃ気がすまないんだから

「それで、どうしたんだ?」

「一年生はもう帰したからさ、練習しても大丈夫だよ」

「ああ、分かった。今行くよ」

 

 

 

 

ヒュッ……タンッ!

弓の風切り音と的に中る音が響く。

「ふぅ。 少し休憩するか」

「「「………」」」

「?」

なにやらあたりから視線を感じる

美綴や桜、藤ねぇまでもが固まっている

「どうしたんだよ。 そんなとこでみんな固まってさ」

「いやさ、衛宮。 あんた自分が射った矢の本数覚えてるかい?」

「……30本位じゃないのか?」

「正確には34本。それを一本も外さないなんて人間あたしゃ初めて見たよ」

そう言ってタオルを投げてくる。

「どうするんだい? 今日はもう終わりにしとく?」

「いや、桜の射を見る約束してたからな。最後に見てくよ」

「そうか、じゃあ私も行こう。間桐も気合が入るな」

美綴はクククと笑いをこらえている

「何が、そんなにおかしいんだ?」

「いや、別に。 衛宮は鈍感だからな。 わからなくていいさ」

「む、俺鈍感か?」

「それにも気づいてないのか…あんたは」

鈍感鈍感ってそんなに俺は鈍感か?

「せ、先輩! 本当に来てくれたんですか?」

「来るって約束しただろう? 来ちゃまずかったか?」

「いえいえいえいえ。 大丈夫です!」

「そうか? じゃあ射ってみてくれ」

「は、はい!!」

弓を構え、矢を持つ。

さっきまでの挙動不審な桜は消える。

集中した…と言うのか今の桜は波一つ立たない水そのものだ。

ヒュッ!    タン!

美綴のような力強さはない代わりに流れるような射だった。

「上手くなったな桜。 入部当初の時の弓すら引けなかった桜がウソみたいだ」

「えへへ。 ありがとうございます」

「これなら弓道部の将来も安泰だな」

「まあね。 最近の間桐の射の腕前は私でも目を見張るくらいだしな」

けど、なんか違う… 弓道部に入るのに忘れてはいけない人間がいたような…

まあ、忘れるくらいだからなたいした事じゃないんだろう

「あれ? 士郎がなんでここにいるの?」

忘れてた… と言うか1番始めにこの人に言うべきだったのじゃなかろうか…

「衛宮は今度の大会に間桐の代わりに出てもらうんです。 大丈夫ですよね?」

「多分大丈夫だよ そうか〜 やっと士郎もやる気になったんだね」

満面の笑みで見られる

少し気恥ずかしくて目をそらす…

すると…

「なに? どうしてお姉ちゃんから目を逸らすのかな〜?」

「うぐっ」

目を逸らした瞬間、藤ねぇのチョークが決まっていた…

ちょ、待て! 入ってる入ってる! 頚動脈がこうギューっと!!

あ、あれ… なんだか気持ちよくなってきて目の前が真っ白に…

「あの、先生? 先輩なんだか青白くなってるんですけど…」

「それに、なんか目が白く…って落ちてませんか?」

「へ?」

ただいま衛宮士郎、弓道部再入部初日、頚動脈圧迫による失神寸前でらいぶで大ピンチ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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